「業界人カオルの分別」箸使い⑤後編

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「業界人カオルの分別」箸使い⑤後編


母は最後の飯を口に入れ、このあと塩昆布を取ろうかどうか、箸を持ったまま考えていた。そう、母は決して箸を手放すことなく、飯を、塩昆布を、汁椀を取って食べているのだ。かく言う自分はというと、そろそろ飯を食べようと思うのだが、飯を口に入れるためには、「茶碗を取る」に加えて「箸を取る」というアクションが必要になる体勢である。洋食ではきっとナイフとフォークを皿に載せてモーグモーグしているはずだ。これを一口食べる度にしているとすれば、なるほど、相当の時間がかかるに決まっている。これが、私の出世が遅れた理由か……
カオル:   なんでそういう癖、治してくれなかったの? 
母:     え? お父さんもそうだから。
まさか。「遺伝」ということ? 留守の父をダシにして、「姑の躾問題」にしようとしている?ああこんなこと考えているうちに箸を取らなきゃ。なんせ今日はサシの勝負なのだから。
母:     ご馳走様でした。りんご食べる?
カオル:   あ、後でいいわ。まだフライ残っているから。
母は流しでりんごを洗い始めた。シャキシャキご飯を食べる母と、のろのろ休みながらご飯を食べる父。我が家の食事のスピードは母が父に妥協して構築されたに違いない。その後子どもたちにも決して「早く食べなさい」とは言わなかったのだから、おそらく母は相当辛抱したのではなかろうか。仕方がない。このスピードで生きるしかないのだ。
せいぜい他人様に迷惑をかけないように気を付けよう。そう思いながら最後の飯を口に入れた。とそこへ、流しから戻ってきた母が言った。
母:     不思議ねえ、あんた歩くの、もーのすごく早いのに。                          
                私もお父さんも いつも置いてかれるのよ、あんたと出掛けると。
つくづく協調性のないヤツに育ってしまったもんだと、モーグモーグしながらうなだれた。
      

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